NPO法人自治経営では自治体への様々な支援に取り組んでいますが、昨年度、FM事業部が支援した断熱セミナーと学校断熱ワークショップについて紹介します。
1 断熱セミナー
断熱セミナーは竹内昌義氏(みかんぐみ共同代表、エネルギーまちづくり社代表取締役、東北芸術工科大学教授)を講師に迎え、「地球温暖化から私たちの暮らしを守るために」と題し、市民や事業者への意識啓発を目的に開催しました。
市民や市職員に加えて、市内外の設計事務所や工務店など、事業の参加も多数ありました。
講演の冒頭、アイスブレイクとして「果たして2050年までにカーボンニュートラルは実現できるか?」を数人単位で意見交換し、その後それぞれの意見を発表しましたが、参加者からは「無理であろう、もしくは困難である」との回答が大勢を占めました。
講師と参加者との意見交換の様子
その後、竹内氏より諸外国の取り組みについて最新の情報などが紹介され、具体的な達成手法について解説がありました。
最後に、人口減少社会において、このままの政策を続けていれば地方は消滅する時代がやってくるので、住む人に選ばれるまちになるために行政がやるべきことの一つとして、ゼロカーボン化による地域経済循環の仕組みが重要であるとの提言がありました。
2 学校断熱ワークショップ
断熱セミナーの翌日、親子参加型の学校断熱ワークショップを開催しました。
会場となる小学校の校舎は鉄筋コンクリート造3階建てで、今回は3階にある普通教室の断熱化に取り組みました。
当日のスケジュール
作業は3班に分かれて、順番に3つの作業に参加するスケジュールで進めました。
最初はラジオ体操から始まります。
(1)ワークショップの概要
今回のワークショップでは、①天井の断熱、②窓の断熱、③壁の断熱の3つを実施しました。
①天井の断熱
足場の上で大工さんから作業の説明を受ける
この教室は最上階にありますが、何も断熱されていなかったため、鉄筋コンクリートが熱を持ったり冷やされたりすると、教室内に簡単に熱や冷気が伝わってくる状態でした。
そこで、天井に穴を開けて、天井裏に断熱材(グラスウール)を敷き詰めました。
天井裏に敷き詰めたグラスウール
当日は真夏日でしたが、グラスウールを敷き込んだ後の教室内は、肌感覚でも屋根からの放射熱が和らいだことが分かりました。
②窓の断熱
教室内からの熱損失が一番大きい窓に、木製の内窓を製作して取り付けました。
事前に内窓の枠は製作しておき、当日は障子を組み立てて、アクリル板をはめる作業をしました。
家具屋さんの指導で木製の障子を組み立てている様子
初めての作業で緊張する様子も見られましたが、協力してくれた家具屋さんの丁寧な指導で全て完成させることができました。
全ての障子ができた後、枠に建て込んだら完成です。
想像以上に綺麗に仕上がりました!
日本の多くの建物ではアルミ製のシングルサッシが多く使われているため、冬に窓際に行くと冷たい空気が流れ込むので、窓を閉めていても寒い思いをしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この内窓があることにより、アルミサッシと教室の間に空気の層ができるため、外からの冷気や熱がダイレクトに教室内に入ることを防ぐことができます。
③壁の断熱
多くの鉄筋コンクリート造の校舎では、外壁や柱のコンクリートがそのまま教室内の仕上げになっていることが多く、ここからも教室内から多くの熱損失が発生しています。
このため、コンクリートの壁部分に木枠を製作して、その中に断熱材(グラスウール)を充填していきます。
サイズを測ってカットした断熱材を充填していきます
断熱材の充填が終わったら、塗装をした合板を貼って完成です。
コンクリートの壁から木の壁になったことで、教室内の雰囲気も柔らかくなりました。
仕上げの合板貼り(塗装も当日に作業しました)
この教室ではコンクリートの壁の面積が少なかったのですが、壁の面積が多い部屋ではより高い効果を得ることができます。
(2)ミニ断熱講座と振り返り
昼休憩の時間に、断熱セミナーで講師を務めた竹内昌義氏によるミニ断熱講座が開催されました。
このミニ講座では、主に子どもたちに向けて、断熱の効果や重要性について理解を深めてもらいました。
竹内氏によるミニ断熱講座
ワークショプ終了時には、参加者全員輪になってワークショップの感想を共有しました。
参加者からは、
「断熱材がどんなものか実際に見ることができた」
「なかなか実際の断熱工事がどんなものかわからなかったので良い経験になった」
「セミナーの内容も踏まえるともっともっと広めていかなくてはいけないと思った」
「断熱効果をワークショップ後に体感できた」
などの感想が聞かれました。
子どもも大人も感想を共有しました
この学校断熱ワークショップでは、参加者同士でコミュニケーションを取り、作業を楽しんでもらうとともに、断熱の効果を知ってもらうことで、市民への広がりや啓発に繋げていくことができました。
(3)事前準備と協力者
最後に、この学校断熱ワークショップの舞台裏を少しだけ紹介します。
ワークショップ自体は1日だけの開催ですが、その当日のために様々な準備が必要になります。
ワークショップ当日も含め、その準備に尽力してくれたのが家具屋「鈴龍」の鈴木さんと、大工「Renobute」の大高さん。
このお二人は、事前に建具の枠づくりや、壁に断熱材を入れる下地づくり、天井への穴あけなど、様々な作業をこなしていただきました。
準備作業中の大高さん(左)と鈴木さん(右)
また、内窓のモックアップを作って納まりを確認するなど、想像以上の熱の入りようには本当に感謝しかありません。
モックアップと写真を確認しながら納まりを検討中
一方、主催した自治体職員も、自ら頭と体を動かしながら準備に取り組みました。
メインとなる環境部局の職員や、営繕部門の職員も協力しながら、事前の準備や当日の運営を行いました。
準備作業前の養生は環境部局の職員が慣れない手つきで主導
営繕部門の職員による木枠の事前組み立てと塗装作業
この支援事業では、主催の自治体から事業を丸投げされるのではなく、あくまで主催の自治体を自治経営が支援する、という形で進められました。
結果として、自治体の主体性を維持しながら、FM事業部が持つ人脈やノウハウを使った意識啓発事業とすることができました。
今後もFM事業部では、公共施設の断熱化やファシリティマネジメントに取り組む自治体の支援を継続していきます。
Comments